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「職員との信頼関係を市民サービス向上に」
竹山修身市長に聞く

堺の公務員改革

堺注染製シャツで議会に臨む竹山修身市長
堺注染製シャツで議会に臨む竹山修身市長
 竹山市長が 「人事行政経験19年の思いを込めた」 と語る 「堺市職員及び組織の活性化条例 (以下、 「活性化条例」) が5月議会で可決された。 活性化条例に込めた思い、 大阪府や大阪市の 「職員基本条例」 との違いなどを聞いた。

【活性化条例への思い】

―大阪府と大阪市の職員基本条例が成立した後、 竹山市長は 「活性化条例」 を提案されました。 府と市の後追いという声もあったかと思うのですが、 なぜこの時期に提案されたのでしょうか。

市長

  公務員の人事制度は市民にとって分かりにくい。 もっと透明性を高めるとともに、 頑張った職員が報われるようなメリハリのある制度が必要だと思います。
  人事制度を見える化し、 人材育成もしっかり行って、 職員と組織を活性化することが市民のための市役所の実現に不可欠です。 活性化条例は、 そんな私の思いが結実したもので、 選挙公約である 「見える化」 の一環です。

【大阪府や大阪市の 「職員基本条例」 との違い】

―府や市の条例は 「職員基本条例」 という名称ですが、 なぜ堺市の条例は 「職員及び組織の活性化条例」 というネーミングなのでしょうか。

市長

  活性化条例には、 府や市の職員基本条例とよく似た内容がありますが、 実は似て非なるものです。 一言で言うと、 府や市の条例は職員をどう管理するかという条例なんです。
  全体の5%の職員が常に勤務成績が不良と評価され、 給与を減額し、 さらには免職にもつなげようとするものです。 最初に割合を決めて一定の職員をその評価に押し込めることが、 職員のやる気を向上させることになるのでしょうか。
  堺市の条例は、 絶対評価を採用しました。 上司と部下が半年ごとに仕事の目標を定め、 それが達成できたかを確認し、 評価することを通じて、 職員を育てることを意図しています。
  まずは上司と部下がしっかりと信頼関係を確立することから、 始めなければならないと考えていますし、 目標に向けた努力の中で、 上司と部下によるパートナーシップも生まれ、 いきいきとした組織になると考えています。

【公務員改革】

―なるほど、 市長が活性化条例に込めた思いがよくわかりました。 しかし、 市民の間では、 公務員は身分を保障されている上、 給与も高いという声があると思いますが。

市長

  本当に勤務成績が不良な職員の身分を保障する必要はありません。 2年連続で最低評価になった職員については、 研修などを行い、 それでも改善の無い場合は免職にできることを活性化条例で明確にしました。 一方で、 頑張っている職員については、 人事評価の結果を昇任やボーナスに反映することにしました。 また、 職員表彰の制度も活性化条例に盛り込みました。
  また、 給与については、 まずトップが範を示す必要があると考え、 特別職の給与を2年間、 20%カットする提案を行い、 全会一致で可決して頂きました。 これで4年間の任期で私が受け取る報酬は、 政令指定市の市長の中で最低ランクになっています。 堺市職員の給与のあり方についても総合的に検討する時期を迎えており、 今後しっかり取り組んでいきたいと考えています。
―市長の人柄に似た、 厳しさと愛情を併せ持った活性化条例、 といったところでしょうか。 それと、 市民には、 天下り批判もあると思うのですが。

市長

  堺市の場合には国のようなことはありませんが、 李下に冠を正さずという意味も込めて、 職員が外郭団体などの市の関係団体に再就職する際には、 民間有識者による第三者機関で適正に判断してもらうこととしました。 その団体のそのポストに市のOBがふさわしいのか、 しっかりと見極めてもらいます。

―そういうやり方なら市民にも理解してもらえるような気がします。

市長

  これから活性化条例を的確に運用して、 人事評価の結果や職員の再就職先などもきっちり市民に 「見える化」 をしていきます。 職員との信頼関係をベースにし、 市民目線での徹底的な 「見える化」 を進めることが、 堺の公務員改革の肝だと考えています。
【大阪都構想と堺市】
―最近、 大阪都構想と堺市について、 何か動きはありましたか。
市長
  先日、 市議会の大都市行財政調査特別委員会の研修会に松井知事が講師として招かれ、 大阪都構想について講演されました。 時間的な制約もあって、 知事と市議会議員との意見交換が十分できたとは言えず、 お互いの理解が深まるまでには至らなかった、 と聞いています。 今後も大阪府と大阪市の大都市制度推進協議会の議論を引き続き注視したいと思います。 いずれにしても、 私は市民福祉の向上につながるとは思えない堺市の分割に反対です。 堺のことは、 市民の皆さんや堺市議会で決めるという立場を貫き、 堺の自由・自治の歴史を守っていきます。


社説

井上円了の壮大な志を想う
東洋大学学長 竹 村 牧 男 

 東洋大学は、 今年創立一二五周年を迎え、 本年度さまざまな記念行事を行っております。 昨年堺市で開催させていただいた全国行脚講演会は、 今年、 東京・名古屋・福岡・仙台の四箇所で行いますが、 これは創立者の井上円了が、 生涯を通じて日本全国津々浦々に講演活動を展開したことにちなむものです。 円了の講演活動は、 自ら開設した 「哲学館」 の維持・発展のための資金を得ることと、 社会教育活動を普及することにありました。
  と同時に、 井上円了は生涯において、 明治二一年、 三五年、 四四年の三回も世界旅行し、 各国の教育事情や社会・文化事情を視察しています。 行き先は、 欧米はもとより、 アジアや南米にも及んでおり、 三回の旅行を通じて海外もくまなく回ったといって過言ではありません。 明治期の日本人として、 これほどまでに諸国の事情に通じていた人物はさほどいないでしょう。
  最初の世界旅行で井上円了がもっとも感銘を受けたことは、 各国が自国の学問あるいは言語・文章・歴史・宗教の伝統を大切にし、 「独立の精神」 を有していることでした。 ここから、 日本伝統の学問・文化の擁護・発展の重要性を訴えるようになります。 もちろん、 西洋の客観的な学問もまた研究教育すべきであると認識していますが、 まず伝統の学問を、 傍ら西洋の学術を究明すべきだとするのです。 この精神が、 現在の東洋大学の名前の背景にあることと思います。
  この井上円了の足跡を見たとき、 円了がいかに気宇壮大な人物であったかを思わずにはいられません。 実際、 円了は日本人の改めるべき点を指摘して、 次のように言っています。
  「日本の短所は、 狭小・短急・浅近・薄弱であり、 国土も小、 身体も小にして短、 日本人の性質も小にして急であって、 才知・思慮・度量・志望のどれをとっても小である。 このような小国的気風を大国的気風に改良するには教育によらなければならない。 学校教育はもちろんのこと、 あらゆる方面から宇宙的思想、 宇宙的観念を注入するのである。 それには学問によって世界のことを知り、 天文学や哲学によって 「遠大の思想」 を養成し、 芸術によって 「雄壮・活発・広大の思想」 を与えなければならない。 そして、 この遠大の思想を養成するということは、 日本人の癖である空想することではなくて、 遠大な目的を定め遠大な方法をとることだとしている。」 ( 「日本の特性を論ず」 明治三六年一一月五日)
  我々はこの井上円了の言葉をかみしめ、 日本という国の遠大な発展計画を具体的に描き、 その着実な実現をめざしたいものと思うのです。